NYタクシーがクールなわけ

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今年もいよいよGWですね。毎年この時期は、成田空港や羽田空港から海外に飛び立っていく人々の映像がニュース番組などで放映されるものです。私も、過去に一度だけ、GWをフル活用して初めてのニューヨーク旅行に出かけた経験があります。(ちなみに、GW: Golden Weekは和製英語です)

当時は、GWにおける海外への出国者数が過去最大だったようで、帰国時には、あまりの人の多さに到着ロビーで友達とはぐれてしまいました。免税店の買物袋をたくさん抱え、ひとりでリムジンバスのチケットを買おうとしていたところ、いきなり空港の館内放送で名前を呼ばれてびっくりしました。なんと、超行動派の私の女友達が、到着ロビーではぐれた私の呼び出しを頼んだのです。このときは、さすがにちょっと行き過ぎた行動力だと思いました。それ以来、GWに海外旅行はしていません(笑)。

初めて訪れたニューヨークは、とても魅力的な街でした。この街のスピード感や躍動感、そして活力に満ち溢れた表情にとても魅了されたものです。ニューヨークは、世界中のありとあらゆるもの、最先端の文化やファッションやビジネスがリアルタイムで集結している街です。でも、私にとって何より魅力的だったのは、この街で出会う人たちの誰もが自分のスタイルを持ち、自分の仕事にプライドを持ち、誰のものでもない自分自身の生き方を貫いていたことです。

そんな出会いの中でも、特に印象に残った2人のタクシードライバーがいました。アメリカに行かれた方はご存知と思いますが、おもてなし抜群の日本のタクシーとは違い、アメリカ大都市のタクシードライバーは、まず無愛想な人がほとんどです。タクシードライバーの大多数がアメリカ国外の出身者ということですが、行き先を告げても大抵は返事もせずに車を出します。当時は、女性の2人旅でしたが、タクシーに乗るときには結構緊張したものです。そんな無愛想で緊張を強いられるタクシードライバーですが、私の記憶の中の「ニューヨーク第一章」では、実に魅力的なキャラクターとして登場しています。今からご紹介しますね。

まず1人目は、JFK空港からマンハッタンのホテルまで私たちを運んでくれたタクシードライバーです。白い肌に少し長めの茶色の髪。いかにも気難しそうな顔つき。有料道路のtollgate(料金所) では、財布からお金を出すのに手間どった私たちに“Too late!” 「遅すぎ!」と怒鳴り、その後、橋を渡ってマンハッタン市内に入るまでの間中、ラジオから流れるアップテンポの音楽に合わせ、何かに取り憑かれたように、ハンドルを打楽器代わりにして叩き続けていました。最初は、私たちに腹を立てているのかと思い、どうか安全運転してくれるようにと願いました。でも、ずっと聞いていると、それは、何か憂さ晴らしのように叩いているわけではなく、完璧に音楽の一部としての「演奏」になっていたので驚きました!

目的地に到着しても相変わらず無愛想な彼に、まずは料金を支払い、そして、チップを渡す際に、“This is for you and your special percussion service.” 「これは、あなたとその素敵なパーカッションサービスに」 と言ってみました。すると、その瞬間、無表情な彼の横顔が満面の笑みを浮かべたのです!まるで、映画のひとコマを観ているようでした。お蔭で彼とは何とか円満にお別れすることができました。ニューヨークの旅の始まりに、いきなり強烈な個性とエネルギーを見せつけられましたが、それが妙に心地良かったんです。

2人目は、黒人のタクシードライバーです。大きくがっしりした体つきに、鋭い目つき。夕方からブロードウェイでミュージカルを観たあと、ホテルまでの帰路に彼のタクシーを拾いました。マンハッタンでは、street とavenueが碁盤の目のように走っているため、タクシーに行き先を伝える場合、この2つを伝えるのが定番のようです。その夜、私たちは単にホテルの名称だけを伝えたのですが、彼は何の迷いもなく車を走らせていきました。

やがて、私たちを乗せたタクシーは、ある通りの角をくるりと曲がり、見知らぬ建物の前で停止しました。ほんの2、3秒、不安ととまどいの時間が流れましたが、どうやら彼がホテルのある通りを勘違いしていたようです。再び走り出した車が数ブロック先の通りの角を曲がると、今度はそこに私たちが滞在する見慣れたホテルの建物がありました。料金を支払おうとすると、彼がメーターを指さしながら低い声で言いました。“It’s my fault. I’ll take off the extra amount.” 「こっちのミスだから、余計に走った分は差し引くよ」

初めて訪れたマンハッタンで、たとえどこをどう遠回りされてもなすすべもなかった私たちが、まさかタクシードライバーから“It’s my fault.”のひと言を聞くなんて、何か不思議な感動が胸をよぎった夜でした。それにしても、あの物言い、あの潔さがたまらなくクールだったんですよね!何か骨太なカッコ良さを感じました。

日本のタクシーのおもてなし度は、確かに世界でもトップレベルだと思います。でも、あんな風にクールに決めてくれる運転手さんには、残念ながらまだ出会っていません。

See you!