こんにちは、eigomob.comへようこそ!
先日、母親の法事のため訪れたお寺の入り口に、次の言葉が掲げられていました。
――朝顔は今日を咲ききる一輪花 明日を問わずに今を尽くす――
沁みるお言葉ありがとうございます。今日も1日頑張ります!
さて、以前ディズニーランドに勤めていたという方が、当時ゲストに対して「ありがとうございました」という表現は使ったことがないとおっしゃっていました。その方いわく「ありがとうございました」は過去の表現であり、目の前のゲストに対する感謝の気持ちに過去はない。いつ何時でも「ありがとうございます」がふさわしい、ということでした。
そう言えば、英語には「ありがとうございます」と「ありがとうございました」の使い分けはありません。英語で感謝の気持ちを伝えたい時には、常に現在形の “Thank you.” が使われます。たとえ過去の出来事に対する感謝であっても、決して “Thanked you.” などとは言いません。ところが、日本語の場合には、感謝を表す際に現在時制と過去時制を明確に使い分けます。この違いはどうしてなのでしょうか?気になったので、ちょっと調べてみました。
英語での感謝が常に現在形で表現されるのは、直接的で個人主義的なコミュニケーションスタイルを好む英語の特性によるものとされています。たとえ過去にしてもらった行為に対する感謝でも、相手にお礼を言う行為は現在なので “Thank you.” “Thanks.” と現在時制で表現されます。何よりも、感謝は、その場での気持ちの伝達が重要という考え方です。
一方、日本語は、間接的で文脈重視の言語です。日本語では、一般的に相手との時間的・物理的な距離や関係性を考慮したコミュニケーションが礼儀正しいとされることから、感謝の表現においても英語との違いが現れます。例えば、お店で会計を頼まれた際には、目の前のお客様に対して「ありがとうございます」と現在形で感謝を伝え、お客様がお店を出る際には、すでに完了した行為への感謝を「(本日は)ありがとうございました」と過去形で表現します。
また、日本語の「ありがとうございました」は、相手との関係に区切りがついたり、関係性が変化する機会などに、敬意を込めて感謝を伝える言葉でもあるということです。例えば、卒業式や結婚式、退職時の挨拶などをはじめ、単に別れ際の挨拶としてもこの表現が使われるのです。
英語の「ありがとう」では、時制がない代わりに、何に対する感謝を伝えているのかを具体的に付け加えることが基本となっています。よく日本語では「この間はありがとう」などと結構あいまいな表現を使うことも多いのですが、英語では、ほとんどの場合、感謝の対象を具体的、明確に伝えます。
Thank you for inviting us for dinner last week.
(先週は私たちを夕食にお招きいただきありがとうございました)
Thank you for sharing the information.
(情報共有ありがとうございます / ありがとうございました)
Thank you for letting me know.
(知らせてくれてありがとう)
Thank you for everything.
(色々とありがとうございます / ありがとうございました)
Thanks for your help.
(手伝ってくれてありがとう)
Thank you や Thanks は、カジュアルにもフォーマルにも使用可能ですが、よりフォーマルに感謝の気持ちを伝えたい時には、I appreciate ~ 、 I’m grateful for ~ などの表現方法を用います。
I appreciate you (for) inviting us for dinner last week.
(先週は私たちを夕食にお招きいただきありがとうございました)
I appreciate that you shared the information.
(情報共有に感謝いたします)
I’m grateful for letting me know.
(お知らせいただき幸いです)
I’m grateful for everything.
(すべてに感謝しております)
I appreciate your help.
(お手伝いいただきありがとうございます)
ここまで、感謝を表す英語表現に過去形はないというお話をしてきました。では、“I thanked you.” など過去時制の表現は存在しないのかと言えば、それはそれで存在します。以下は例文です。
I thanked you for the nice gift.
(私はあなたが素敵な贈り物をくれたことに感謝しました)
I thanked him for his help.
(私は彼に助けてもらったお礼を言った)
She thanked him for coming here.
(彼女は彼に来てくれてありがとうと言った)
We thanked her for her hospitality.
(私たちは彼女の厚いもてなしに感謝した)
They never thanked God.
(彼らは神に感謝することはなかった)
すでにお気づきのように、“I thanked you.” や “I thanked him.” など thank の過去形を使った表現は「私はあなたに感謝した」「私は彼にお礼を言った」という過去の出来事を述べたものに過ぎません。つまり、過去形の thanked は、感謝の気持ちを伝える表現ではなく、単に過去に感謝した事実を語るための表現になるということです。
文化的な背景から、英語と日本語で感謝の伝え方が異なる点は、とても興味深く思います。それにしても、日本人の「ありがとうございました」という過去形の表現にはさまざまな含みがあるということですね。私たちは普段、無意識にこの表現を使っていると思いますが、よく考えてみると、確かに状況に応じて色々な意味合いをこの言葉に込めているような気もします。特に、相手と距離を置きたい時や関係に区切りをつけたいと思っている場合には、この当たり障りのない言葉はとても便利ですね。あくまで丁寧に、礼儀正しく、そして極めて婉曲的に関係を終わらせようとする試みは、日本人なりの「美学」なのかもしれません (笑) 。
See you!