米メディアが選ぶ「今年のワード」

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日本における年末の風物詩のひとつに、毎年12月12日に京都の清水寺で発表される「今年の漢字」があります。「今年の漢字」は、国民の応募投票によって選ばれ、その年を象徴する出来事や話題をさらった事象に基づく国内世相を反映しています。

アメリカでも同様に、多くのメディアが年末に「今年のワード / Word of the Year」を発表していて、毎年、英語圏における社会的・文化的関心や、価値観の変化などを象徴するワードが選ばれています。

では、実際にどのようなワードが選ばれているのでしょうか?今回のブログでは、アメリカ英語の代表的な辞書の出版社であるメリアム・ウェブスター社 (Merriam-Webster) が過去 5 年間に選出した Word of the Year をご紹介するとともに、過去 5 年間の「今年の漢字」についても振り返ってみたいと思います。

Merriam-Webster Word of the Year (2021 – 2025)

🔹2021 vaccine

vaccine(ワクチン)ー 言うまでもなく、この年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンが実用化され、世界各地で接種が進みました。ウェブ上では、ワクチン、副反応、安全性などの検索ワードが頻出しました。vaccine に関連して、vaccine equity (ワクチンの公平性/公平な供給・分配)、vaccine hesitancy(ワクチン忌避、ワクチン接種へのためらい)といったフレーズが生まれ、ワクチン接種証明の議論も始まりました。

ニュース例:
Vaccine distribution in the United States has faced logistical hurdles as states work to administer millions of doses.” ― PBS NewsHour
(米国におけるワクチン配布は、各州が何百万回分もの摂取を実施するために物流上の困難に直面している)

“Public health officials urged Americans to get the vaccine to help curb the spread of COVID-19.” ― CNN / Immunize Colorado (報道要旨)
(公衆衛生当局は、COVID-19 の拡大を抑えるために、アメリカ国民にワクチン接種を受けるよう促した)

“Debate over vaccine mandates has sparked intense political discussion around individual choice and public safety.” ― PBS / ABC News (要約)
ワクチン義務化をめぐる議論は、個人の選択と公共の安全をめぐる激しい政治的討論を引き起こした)

2021年「今年の漢字」 「金」
日本は、この年、なんと緊急事態宣言下で東京オリンピック・パラリンピックを無観客で開催。結果、日本選手がたくさんの「金」メダルを獲得するとともに、政治の裏金問題や物価の高騰など「お金」というものに関心が集まりました。

🔹2022gaslighting

gaslighting(ガスライティング)とは、「心理的手段によって相手が自分の記憶や認識を疑うように仕向けること」を意味する言葉です(動詞は gaslight)。2022年には、政治・メディア・人間関係の各分野で「誤情報」「フェイク・ニュース」や「心理操作」の議論が盛んになり、gaslighting というワードの検索件数が増加しました。political gaslighting (政治的ガスライティング) などの表現が多用されるようになると同時に、人間関係における心理操作や心理的虐待を表現する言葉としても浸透し、日本でも2023年頃から一般に普及され始めました。この言葉の語源は、1930年代のイギリスの戯曲を映画化した「ガス燈 (Gaslighting)」に由来していて、この映画では妻を精神的に追い詰めていく夫の様子が描かれています。

ニュース例:
“A former aide admitted that the campaign had been gaslighting Americans about the president’s health ahead of the 2024 campaign.” ― New York Post
(元側近のひとりは、2024年の選挙を前に、大統領の健康状態についてアメリカ人をガスライティングしていたことを認めた)

Critics say the company’s response to customer complaints bordered on gaslighting, dismissing genuine concerns as nothing.” ― Forbes
(批評家たちは、顧客の不満への会社の対応がほとんどガスライティングだと述べ、本当の懸念を無視したと批判した)

2022年「今年の漢字」 「戦」
この年に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、私たち日本人にとっても大きな衝撃となりました。戦争の影響が日常生活や物価にも及んだことから、この漢字が国民の心情として支持されました。

🔹2023authentic

authentic (オーセンティック) は、日本人にも比較的馴染みのあるワードだと思いますが、「本物の、信頼できる」という意味で使われます。SNS が多用され、生成 AI が普及した情報過多の時代において、情報や自己表現への「本物らしさ」を求める動きが強まったことを反映してこのワードが選ばれました。さまざまなコミュニケーションの場で authentic content (本物のコンテンツ)、authentic self (本当の自分) などの表現が増え、偽情報や過度な作り込みを避け、より信頼感や正直さを求める傾向が強まりました。

ニュース例:
“Artists across the industry have been praised for creating authentic work that reflects lived experience rather than algorithmic trends.” ― NBC News social post summary
(その業界全体のアーティストたちが、アルゴリズムのトレンドではなく実体験を反映した本物の作品を創り出したとして称賛されている)

“Influencers are now emphasizing authentic engagement over superficial likes and shares.” ― Social media commentary via Facebook post
(インフルエンサーたちは、表面的な「いいね」や「シェア」よりも、本物の関わり(オーセンティックなエンゲージメント)を重視するようになっている)

Consumers report a growing appetite for authentic products and experiences post-pandemic.” ― Industry trend report (summary)
(消費者は、パンデミック後、本物の商品や体験への需要が高まっていると報告している)

2023年「今年の漢字」 「税」
2023年の日本では、1 年を通して税に関する議論が活発に行われました。所得税・住民税の定額減税、インボイス制度の導入やふるさと納税のルール変更など、税にまつわる話題で持ちきりの年となりました。

🔹2024polarization

polarizationは「分極化(分断)」を意味します。昨今、欧米のニュースにはこの言葉がよく登場しますが、特にこの年、アメリカでは大統領選挙をめぐる政治的・社会的対立や分断が顕著になり、political polarization (政治的分極化)、media polarization (メディアの二極化) などの表現がニュースで頻出しました。また、世論調査においても、多くの人々が政治・社会・倫理的価値観における両極化や対立の強まりを実感しました。

ニュース例:
Political polarization has defined the 2024 election cycle, with divisions over policy and identity at the forefront.” ― AP News 2024 election reporting
政治的な分極化が2024年の選挙サイクルを特徴づけており、政策とアイデンティティをめぐる対立が表面化している)

“Commentators on both sides of the aisle acknowledge that polarization now affects social life beyond politics.” ― CNN analysis summary
(左右両陣営の評論家たちは、分極化が政治以外の社会生活にも影響を及ぼしていることを認めている)

“Experts warn that polarization in workplaces is growing as cultural and political identities increasingly influence company culture.” ― Forbes
(専門家たちは、文化的・政治的アイデンティティが企業文化に影響を与えるにつれて、職場での分極化が進んでいると警告している)

2024年「今年の漢字」 「金」
「金」が選ばれたのは、2021年に続きこの年で 5 回目ということです。2024年の「金」の特徴としては、光の「金(きん)」と影の「金(かね)」という二面性がありました。明るいニュースとしては、パリ五輪での日本人選手の金メダルラッシュ、大谷翔平選手の値千金の活躍、佐渡島の金山の世界遺産登録などがありました。一方、政治の裏金問題、闇バイトによる強盗事件の多発、止まらない物価高騰などが影の「金(かね)」の象徴となりました。

🔹2025slop

slopは、もともと「泥、ぬかるみ、粗末なもの」などを意味するワードですが、ここ数年 AI が大量に生成する低品質なデジタルコンテンツを表す言葉としても使われています。AI 生成コンテンツの台頭に伴い、AI が生成した質の低い動画や画像、文章、ニュースなどがネット上に溢れた現象を象徴するワードとして slop が選ばれました。例えば、AI slop videos (AI によって低コストで大量に自動生成された内容が薄い動画コンテンツ)や、slop news、workslop(AI が生成した見た目は良いが中身のない仕事の成果物)といった表現が増加したことが背景にあります。世代にかかわらず、「AI 成果物の質」に関する議論が関心を集めた年ということです。

ニュース例:
Slop describes the flood of low-quality, AI-generated videos and articles that have saturated social media feeds this year.” ― AP News
スロップは、今年ソーシャルメディアのフィードを覆った、質の低い AI 生成動画や記事の氾濫を表す言葉だ)

“Critics argue that too much slop content undermines trust in online information.” ― Windows Central
(批評家たちは、スロップと呼ばれるコンテンツが多すぎることで、オンライン情報への信頼が損なわれていると主張している)

“Platforms like YouTube and TikTok face backlash for enabling slop to proliferate.” ― Tech commentary via The Verge summary
(YouTube や TikTok のようなプラットフォームは、スロップの拡散を助長したとして反発に直面している)

2025年「今年の漢字」 「熊」
これ、ちょっと驚きでした。確かに、クマ被害は今年後半のビッグニュースではありましたが、まさか「熊」が「今年の漢字」の座に座るとは!ちなみに、投票数が 2 番目に多かったのは「米」ということですが、むしろこちらの方が個人的にはより納得感があります。

以上、メリアム・ウェブスター社が選んだ過去 5 年間の Word of the Year はいかがでしたか?私も調べてみて勉強になりました。さて、来年は、「熊」ではなく「午/うま」の年です。日本も、世界も、良い方向に力強く前進できる 1 年であってほしいと願います。そして、あなたにとって、英語が飛躍的にウマくなる年でありますように! 

See you!